他人の顔

　サモ・ハン・キンポーが黒烏龍茶のCMに出演している。ロデオマシーンに乗りながら焼きたてのステーキをほおばるCMである。往年の香港映画ファンにしてみれば、何がしか安堵がこぼれていることと思う（多分）。

　現在の正式名は「サモ・ハン」。アメリカ進出に伴っての改名らしいが、なぜ「キンポー」を取ったのかいまだに悔やまれる。欧米人に「キンポー」の発音は難しいのか理由はそれだけではないだろうが、馴染みやすくするための配慮と思われる。しかし「サモ・ハン・キンポー」という語感のすばらしさといったらないのに、それで馴染んできた我々の立場はどうなるのか。「サモ・ハン」からは俊敏や強靭、そして「キンポー」からは滑稽さや柔和なイメージを喚起させる響きがある。すなわち「サモ・ハン・キンポー」は彼の持つ魅力をそのまま表現された名前なのだ。それを「キンポー」を取ったら俊敏、強靭ぐらいしか残らない。最近髭なんか生やしていかつい風体になっているのはそのせいかもしれない。

　ところがこのCMではその髭を剃り、かつての風貌を取り戻したかのような朗らかな表情で最後に黒烏龍茶を飲む姿。それは「サモ・ハン・キンポー」そのままだ。商品のホームページを見るとちゃんと「サモ・ハン・キンポー」名義でクレジットされている。CMだけの話かもしれないが、とりあえず「サモ・ハン・キンポー」復活にバンザイをあげたい。