他人の顔

  

　J-POPはおろかジャズやクラシック、偏った趣味も無く本当に音楽を聴かない僕だけど、何気に凄いのは吉幾三である。動画サイトに溢れる有名曲と「俺ら東京さ行ぐだ」のリミックス動画。間の手ひとつで一気に幾三色に染まる破壊力。「あっ、そーれっ！」「あっ、ヨイショっ！」「そうしまっしょったら、そうしましょっ！」「ハっ！」など一声聴いただけで日本人のDNAが「幾三だ」と反応してしまう。

　ダジャレの芸名にどでかいグラデーションサングラスというあやしい出で立ちで我々の前に現れた幾三。数々の歌番組で間の手を入れまくり、いつのまにか観る者の意識に刷り込まれてしまう。ふざけた歌手かと思えば「雪国」や「酒よ」などしっとりした歌も持っている。音楽会きっての侮れない男、それが幾三だ。  

その人を見ただけで、その人が持つバックグラウンドというか生活背景が自ずと見えてくる人がいる。

某ファーストフードへ行った時のこと、いつものように注文口へ向かうと、応対する若い娘に混じっている一見異様な女性に当たった。年齢が上なのは明らかで、肌が浅黒く小じわが多い。よほどの年寄りかと思うと声は見た目よりは若い。その風体から私はその人が持っているであろう生活背景がありありと目に浮かんで来たのだ。

既婚者であるが、夫は先立たれているか、病に臥している。3〜4人の子だくさんで上は大学生の長男、末っ子は小学校3年生の男の子。2番目か3番目には長女がいる。子供たちのためにも稼がなければならず、ファーストフードだけでは足りず掛け持ちで休む暇がない。書いてるうちに目が潤んできそうだが、こうした気苦労が絶えない女性は見た目の老化だけが急激に進み、たいてい吉本隆明に似ている人が多い（気がする）。

勝手に引っぱり出して来て、ありもしないことや誰に似ているなんてことを言うのは、偏見甚だしい上、失礼千万な話なのは充分承知だが、とにかくこの人には頑張って欲しいと心からエールを送りたい。